Abstract
[A] 「中性水環境における炭素鋼の均一腐食と不働態化」
アイテック 明石 正恒
(1) 中性自然水環境における炭素鋼の均一腐食速度についての電気化学反応速度論の基礎的考え方を概説し,均一腐食進展予測モデルの例を紹介する.
(2) 活性態/不働態遷移pH(pHd)の水質条件依存性データを紹介し,pHd予測モデル構築の現状を 紹介する.
(3) 不働態化炭素鋼の局部腐食および応力腐食割れデータを紹介する.
[B-1] 「下水道における樹脂ライニングの劣化挙動 (2)」
東工大 久保内昌敏,枡田 吉弘
下水道環境では,嫌気性環境で微生物作用によって発生するH2Sが攪拌や流動に伴って蒸発し,気相壁面で今度は好気性環境の微生物によって酸化されて硫酸が発生するという硫黄サイクルがあり,このため下水道のコンクリート構造物が硫酸劣化する.コンクリートは硫酸と反応して石膏になったりするとともに,内部の鉄筋腐食まで進行すれば,崩落にまで至る.このため,コンクリートに対する耐食対策のひとつとして有機材料によるライニングが施工されるようになっている.中でも既設の構造物に施工するためには,接着性と施工性が求められるためにエポキシ樹脂が多用されているが,もともとエポキシ樹脂は耐酸性の高い方ではない.このため樹脂および硬化剤に様々な変性や添加剤を駆使するとともに,きちんとした施工が求められている.
実際に下水道環境で用いられるライニング材料を,エポキシ樹脂を中心に調査した結果,エポキシ樹脂では長期間にわたって時間の平方根に比例して硫酸の浸透が認められた.しかしながら,強度の低下やIR分析上の化学構造の大きな変化は認められない.また,浸透した硫酸はライニング材料を透過した後,再び硫酸として溶出することが明らかとなった.さらに,浸透速度の硫酸濃度依存性を検討したところ,多くの場合で濃度の平方根に比例した.以上のことから,アミド結合部に塩を形成しながら浸入するモデルを提案している.
[D-1] 海水中における亜鉛めっき鋼の局部腐食解析
早大理工 (院) ○ 牧水 洋一
早大理工 酒井 潤一
〔緒言〕亜鉛めっき鋼は海浜環境の構造物などに多く使用されているが,今回,海水中で使用されている亜鉛めっき鋼製の部材において,局部腐食が発生したことが報告された.また,問題になっている部材の腐食電位を現場で測定したところ,-0.4
Vvs.SSE〜-0.2
Vvs.SSEにまで電位が貴化していることが判明した.このような海水中における亜鉛めっき鋼の局部腐食及び電位の貴化現象について報告している例はこれまでにない.よって,本研究では海水中で発生した亜鉛めっき鋼の局部腐食の発生メカニズムを解明することを目的とし,腐食生成物,電位挙動などに着目して検討を進めた.
〔実験方法〕試料には市販の溶融亜鉛めっき鋼(非合金化,以下A鋼)と実際の構造物に使用されているものと同じ溶融亜鉛めっき鋼(合金化,以下B鋼)を用いた.試験片のサイズは15×15 mmとして試験面以外はマニキュアでコーティングした.腐食の加速試験として1回/dayの割合で0.93M NaCl ? 0.55M
MgCl溶液または純水を噴霧し,その後,室内及び100%RHのデシケーター内に曝露するサイクルを繰り返した.腐食加速試験の結果,亜鉛めっき表面に形成された腐食生成物をXRDによって同定した.また,電気化学セルを用いて腐食電位の測定を行った.
〔結果および考察〕加速腐食試験後の亜鉛めっき表面の腐食生成物をXRDによって同定したところ,A鋼,B鋼ともに塩水を噴霧した際の主な腐食生成物はSimonkolleite(塩基性塩化亜鉛)であった.純水を噴霧し,室内に曝露したものはその腐食性の低さからXRDで検出される腐食生成物は形成されなかった.ただし,純水を噴霧し100%RH環境に曝露したものは塩基性炭酸亜鉛を形成していることが確認された.また,塩水を噴霧したものでも,100%RH環境に曝露したB鋼では僅かに塩基性炭酸亜鉛が形成されていた.このことから,高湿度環境においては塩基性炭酸亜鉛が形成されやすいことが示唆される.
次いで,表面に腐食生成物が形成された亜鉛めっき鋼の腐食電位の測定を行った.加速腐食試験を行わない亜鉛めっき鋼の腐食電位はA鋼,B鋼ともに-1.04〜-1.05 Vvs.SCEの電位を示した.各加速腐食試験後の試料の腐食電位もそれぞれ-1.03〜-1.05 Vvs.SCEを示し,その差はほとんど確認されなかった.よって,Simonkolleite及び,塩基性炭酸亜鉛が亜鉛表面に形成されても,亜鉛の腐食電位には影響を及ぼさないことが言える.つまり,表面に形成される腐食生成物の影響だけでは,今回のような亜鉛めっき鋼の電位の貴化現象について説明できないことが分かった.電位の貴化現象及び局部腐食の原因解明のためには,その他の要因について検討する必要がある.
以上
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