Abstract
平成23年度 第3回材料のパフォーマンス研究会 講演者と概要
[A講演] 「高Crフェライト系ステンレス鋼の材質(機械的性質,耐食性)におよぼすNiの添加効果」
腐食センター 小川 洋之
高Crフェライト系ステンレス鋼(ここではほぼCr含有量>15mass%)は切欠き靭性が相対的に低く,また,CrとC,Nとの炭窒化物の生成を抑制するために安定化元素(Cr炭窒化物の析出に優先して炭窒化物の形成する元素.例えば,Nb)の添加を必要とするが,このことがさらに切欠き靭性を低下させる要因となる.
低い切欠き靭性を改善するためにNiの添加が行われるが,高Crフェライト系ステンレス鋼にNiを添加すると機械的性質に顕著な変化が観察される.
例えば,
(1)双晶頻度が増加するとともに強度が上昇する.
(2)(1)の結果として脆性破面の破面形態が変化し,それに伴って衝撃エネルギーの吸収過程が変化する.
また,耐食性も影響を受ける.
高Crフェライト系ステンレス鋼はNiを含有すると塩化物溶液中で応力腐食割れを発生するとされているが,Niを含有しなくても応力腐食割れを発生する場合がある.Niを含有する場合でも一様な割れ形態で割れ発生するのではなく,割れ発生/割れ形態は塩化物イオン濃度と環境溶液のpHに対応して変化する.
電極反応もNiの添加量とともに変化する.
(1)Ni含有量とともに水素還元反応電流が増加する(水素還元反応のみかけの過電圧が低下する).
(2)Depassivation pHが低下する.
CおよびN含有量を低減した高純高Crフェライト系ステンレス鋼の開発研究についても概説する.
[B講演]「マンガンによるステンレス鋼の腐食事例―黒い水の新たな起源―」
(財)原子力安全技術センター 高崎 新一
河川水を原水とする工業用水を使用している工場で稼動1年後に新設マシーンのSUS304製送水配管に水漏れが発生した.溶接部付近に虫食い状の腐食が認められることや表面分析で特異な物質が検出されなかったことから,鋼管メーカーは微生物腐食と推定した.しかし,用水は工場内で塩素による殺菌が行なわれていることや配管表面にMnの付着が認められることから,腐食因子として塩素濃度とMnの起源にしぼって調査した.その結果,Mnは水田肥料などに使われているMn化合物が不定期に河川に流入することに起因すると推察されたので,とりあえず,適切な塩素濃度に制御して対応することとした.
[B講演]「耐浸炭・メタルダスティング性に優れた新材料」
住友金属工業(株) 栗原 伸之佑
将来需要が急増すると予測されるGTL(Gas to liquid),アンモニア,メタノールプラント,水素製造装置等の配管や付帯設備はCO等を主とした浸炭性の合成ガス環境となり,400~800℃の温度域にてメタルダスティング(以下,MD)と呼ばれるpit状の減肉を発生する.
当社が開発した耐MD材Ni基合金SUMITOMO
696(UNS No.N06696, Code Case 2652)は,Si添加による保護性酸化皮膜の形成及びCu添加によるガス解離性吸着制御による当社独自のハイブリッド手法を適用することで優れた耐MD性を有し,現在,市場投入に向けてPRを推進中である.本研究会では,SUMITOMO 696のラボおよび客先実炉プラントによる耐MD性評価結果及び機械的特性を紹介する.
以上
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