Abstract
平成24年度 第1回材料のパフォーマンス研究会 講演者と概要
[A講演] 「銅の腐食とNakajima Diagram」
鹿島建設(株) 中島 博志
腐食と水質に関しては従来様々な研究がなされてきた。青銅のバルブと管端を保護していない塩ビライニング鋼管の管端部は異種金属腐食の代表的な例で、法的な償却年数(耐用寿命)を待たず短い年数で漏水を発生した事例を調べれば、「この腐食は異種金属腐食である」と言うことになる。しかし世の中には、青銅のバルブと管端を保護していない塩ビライニング鋼管の管端部は、数百万箇所存在する。短期間(数年)で腐食漏水を発生するものはこの数に比べれば僅かである。この事は同じ腐食要因を持っていても実用的な寿命を全うするかどうかは、環境要因即ち水質に依存していると言うことである。
この例は鋼の全面腐食に関するものであるが、材料の水中での耐食性の(腐食発生の)水質(環境)感受性は、その材料が水中で耐食性を持てる皮膜の形成のされ方に影響される。ステンレス鋼は大気中で形成された皮膜が水中でも耐食性を持ち、脱不働態化pHが2程度と低い為通常の淡水中では、局部腐食を発生させる溶接やすきま等の要因が無ければ、腐食の水質(環境)依存性は低い材料である。鋼は脱不働態化pHが9.以上である為に、通常の淡水では耐食的な皮膜を持たず全面腐食を発生する。通常の淡水で例外的に極めて低い全面腐食速度を持つ場合は表面に水中からの炭酸カルシウムが析出する(この判定に使用されるのが1930年代に発表されたランゲリア指数である。銅は大気中で形成された薄い(nm)皮膜では水中で耐食的では無く、水中で形成される厚い(μm)酸化第一銅の皮膜で耐食的になる。このため銅の腐食は大きな水質依存性を持つことになる。
上記の議論では水質という語句に人工の酸化剤(残留塩素)は含めていない。いずれにしても材料を使用する前に(建設される前に)、環境の材料の腐食特性に与える影響を評価可能である事が最も実用的である。
(1)銅の腐食と水質
銅の腐食原因に関してはさまざまの研究がなされたが、水質に特徴がある事が昔から佐藤・山内等により唱えられてきた。これは銅管の水中における耐食性を担う表面皮膜が水中に浸漬された後に生成される事に原因がある。銅の腐食の種類には、青水・潰食・孔食Ⅱ型(給湯)・孔食Ⅰ型(給水・水蓄熱冷水・氷蓄熱冷水・冷却水)・マウンドレス型孔食(給水)がある。海外には、この他の分類(例えばⅢ型孔食)もあるが、日本ではこの分類が一般的である。
一般的に腐食の原因は単一でなく、複数の原因が重なった時に生じる事が多い。(但し人工の酸化剤である残留塩素等は、過度に注入すれば、水中の溶解成分他の条件に関係なく、銅管に孔食を発生させることが可能である。)
従来は銅の腐食の種類ごとに、それぞれ特有の水質があると国内外で40年近く考えられていた。しかし水質要因については、単一の水質指標MWPI(Makeup Water Pitting Index)CWPI(Circulating
Water Pitting Index)で発生する可能性を示せる事が判明したことを報告する。
(2)Nakajima Diagram
この孔食指数を作成するのに使用した、pHを横軸に、全アニオン等量に対する塩化物・硫酸イオンの合計等量%を縦軸にした水質表現図法をNakajima Diagramと名づけた。このNakajima Diagramを使用して①水質の腐食性判定、②既知の腐食事例の水質との比較、③水質の経時変化と腐食Riskの増加・減少の判定(水質のモニタリング管理)、④水質変化のメカニズム判定(・原因解析、対策立案、対策検証・水処理薬品の開発)、⑤新しい水質指標の開発(・既存水質指標の拡張(腐食タイプ別の指数作成)・ステンレス鋼への拡張)等が可能な事を示す。
(3)参考文献
時間が限られているので興味のある方は
①http://www.corrosion-center.jp/pdf/news/No.054/No.054.pdf から「銅の腐食と水質」(24ページ)MWPI/CWPI NakajimaDiagram
②http://www.corrosion-center.jp/pdf/news/No.057/No.057.pdf から「地下水RO(逆浸透)膜処理水と腐食」(20ページ)水質・ステンレスのPitting Index が腐食センターニュースのカラー版を無料で誰でもダウンロードできるのでプリントしてお持ち頂ければテキストの変わりになります。
③会員の方は材料と環境の春の大会の 2009・2010・2011の梗概集も参考にしていただけます。
[B講演]
「高圧水素ガス中での材料評価」
住友金属テクノロジー(株) 小出 賢一
次世代エコカーの1つである燃料電池車(FCV)の実用化には、高圧水素中で使用可能な材料の選定・開発が必須である。特に高圧水素中での材料劣化の研究には、鋼中の水素濃度の把握が重要である。しかしCr-Mo鋼の場合、水素の拡散速度が速いため、材料試験実施時に水素が放出され、真の水素濃度を把握することが困難である。そこで放出速度と温度の関係のシミュレーションを元に、高圧水素曝露時の水素量を把握できる試験法を開発した。また高圧水素中での各種材料の水素脆化特性および疲労特性を紹介する。
[B講演]
「『潤滑油と腐食(その2)-さび止め油について-』
+『ACMセンサを用いたさび止め油の性能評価』」
出光興産(株) 長瀬 直樹
①「腐食センターニュースNo.052:潤滑油と腐食(その2)-さび止め油について-」をもとに、さび止め油の種類と特徴、成分と作用機構について述べる。くわえて、多様化する需要家の要求特性とそれに対する最近のさび止め油の取り組みについて、事例を挙げて解説する。
②「第58回材料と環境討論会発表:ACMセンサを用いたさび止め油の性能評価」環境の腐食性評価等に活用されているACMセンサを用い、Cl-を付着させたACMセンサの室内暴露環境での腐食性を評価し、同時にCl-を混入させたさび止め油をACMセンサに塗布して、さび止め油のさび止め性を評価した。得られた知見について報告する。
以上
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